東京高等裁判所 昭和26年(ネ)2263号 判決
控訴人訴訟代理人は、原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。との判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、控訴人訴訟代理人において、被控訴人が本件建物の共有権を取得したのは、昭和二十二年十月十三日調停成立によるもので、仮処分執行後であるから、執行当時被控訴人は譲渡又は引渡を妨ぐる権利を有せず、従つて第三者異議の訴を提起することはできない。また本件建物が原審で主張したように、十一名の共有に属しないとしても、少なくとも本件当事者外四名計六名の共有に属するから、共有者の一人である被控訴人単独では、第三者異議の訴を提起することはできないと述べ、被控訴人訴訟代理人において、控訴人の右主張事実に対し、昭和二十二年十月十三日調停成立したことは認めるが、被控訴人はこれによつて本件建物につき共有権を取得したのではないと述べた外は、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
控訴人が、別紙物件目録<省略>記載の建物の敷地は控訴人の所有であるところ、訴外保坂藤吉同広川末吉が右建物の各一部と共にその敷地を不法に占拠しているという理由で、同土地の所有者としてその返還請求権保全のため、右訴外人両名に対し東京地方裁判所に仮処分命令の申請をしたこと、この申請事件(東京地方裁判所昭和二十二年(ヨ)第十七号事件)につき同裁判所のなした仮処分命令に基ずき、控訴人が昭和二十二年一月二十日別紙物件目録記載の建物部分及びその敷地に対し仮処分の執行をなし、同建物部分及びその敷地に対する右訴外人両名の占有を解き、これを控訴人の委任した東京地方裁判所所属執行吏西直吉の保管に附したこと、その後控訴人が右執行のうち、敷地に対する部分のみは解除したが建物部分に対する執行(以下本件仮処分執行と略す)は依然維持していることは、当事者間に争なき事実である。
ところが右建物部分に対する仮処分命令も、前示の如くその敷地の所有権が控訴人に属することを理由としてなされたものであるところ、右建物の敷地が控訴人の所有に属せず、却つて被控訴人の所有に属するものであることは、本訴において控訴人が認めて争わないところである。
然らば、現在その執行の一部が維持されている右仮処分命令は被控訴人主張の如く許すべからざるものということができるが、被控訴人はこの仮処分命令における債務者ではないので、この点を理由として異議を主張し得ないのはもちろんのことであり、本訴は、仮処分手続に準用せらるる民事訴訟法第五百四十九条によつて、右の如く依然続けられている本件仮処分執行の目的物、即ち本件建物部分につき、右法条規定の権利を主張しているものであることは、訴状の記載並びに弁論の全趣旨から明かである。よつて被控訴人に右法条にいう目的物の譲渡若くは引渡を妨ぐる権利があるかどうかを調べてみるに成立に争のない乙第一号証(本件建物の登記簿謄本)によれば、本件九十坪の平家建店舗一棟は昭和二十二年十月十三日調停成立により、訴外関山幾三郎、同葉山進一、同狩野源太郎並びに被控訴人安藤芳太郎及び控訴人桜井進の共有となり、昭和二十三年一月二十四日その旨の登記を了していることが認められるから、被控訴人は共有者の一人として、本件仮処分執行の目的物につき持分権即ちその譲渡若くは引渡を妨ぐる権利を有する者である。そしてこのような持分権者として民事訴訟第五百四十九条により第三者異議の訴を提起し、以つて執行の不許を求めるのは、畢竟所有権の保全に必要な行為に外ならないから、被控訴人は民法第二百五十二条但書に規定する如く、他の共有者全部と共同でなくても、単独でなし得るものといわねばならぬ。その執行をなした者が偶々被控訴人と同じく共有者の一人であつたとしても、そうでない第三者であつたとしても、何等区別はないものと解する。
控訴人は、被控訴人が共有者の一人となつたのは本件仮処分執行後であるから、第三者異議の訴を提起することは許されないと主張するけれども本件仮処分は前示の如く、単に建物部分に対する訴外者両名の占有を解き、執行吏の保管に附したのであつて、別段その家屋の譲渡の禁止等の処分を登記簿に記入したというような第三者に対抗し得る処分ではないのであるから、被控訴人が執行後に前記の如く目的物の共有者となり、その旨の登記も了していれば、第三者異議の訴を提起し得るのは当然であり、且つ口頭弁論終結に至るまでの状態において、民事訴訟法第五百四十九条の要件の有無を審査すべきであるから、右控訴人の主張は採用できない。また控訴人は被控訴人の委任に基ずいて仮処分命令の申請及び同命令の執行をしたので、被控訴人は異議権を抛棄したものであると主張するが、かかる事実を認めるに足りる証拠は何もない。なお控訴人は、もし委任の事実が認められないとすれば事務管理としてなしたのであると主張するけれども、本件仮処分命令の申請及びその命令の執行は控訴人が被控訴人のためになしたのではなく、自己が土地の所有者なりとして自己のためになしたものであること、前示のとおりであるから、これを事務管理と解することはできない。
然らば本件仮処分執行の不許を求める被控訴人の本訴請求はこれを認容すべきであり、原判決も結局これを認容したのであるから正当であつて、本件控訴はその理由なきにより、民事訴訟法第三百八十四条第二項、第九十五条、第八十九条に則り、主文のように判決する。
(裁判官 斎藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)